サラ・ウォーターズ「半身」創元推理文庫

半身ISBN:4488254020

父を亡くし、親友を失ったマーガレット・プライアはミルバンク監獄へ赴き、草花の芽生えるはずのない独房で菫を頬にあてている少女と出会う。その光景は灰色の世界の中で唯一色を持っているようにマーガレットには感じられた。ドーズ。彼女は霊媒であり、マーガレット以外知るはずのない父親の言葉や彼女の生活をマーガレットに語りはじめる。最初は興味を惹かれるようにして、マーガレットは徐々に彼女と交わるようになっていくが……。

荊の城荊の城が面白かったので購入したのですが、っていうかシライナあ!

サラ・ウォーターズは退屈なところはとかく冗長なのだが、全ての謎がわかったあとで読み返すと、それが非常に重要な伏線になっているといった、非常に卓越したストーリー・テラーだ。テキストもかなり良くて、リアルでぐっとくる。マーガレットが自分をただ、特に感情を込めずに老嬢というところなんて、凄みを感じませんか?

荊の城もそうだったように霊媒の謎とともにストーリーに女性同性愛が絡むのだが、*1結末が……うおー。詳しく書けばネタバレになってしまうし、書けないなら書けないでもどかしい思いにじたばたしてしまう。百合ってことになるのかとも思うが、描写が真に迫っていて生々しく、百合にカテゴライズしていいものかどうか悩む。私が知っている百合モノっていうのはたとえば月に一度の逃れられない月経とか、長い髪とか、自分の存在に歯がみするような痛々しさを伴うことが多いのだが、「半身」のふたりは閉じられた関係でいながら開放的で、イタ気持ちいい。ドーズがマーガレットをずっと待ちこがれていたわたしの半身だというところは震えが来た。幸せになってほしい、と思わずにはいられなかったなあ。

*1:っていうかこれが作者の萌えなんか?