広瀬 晶「螺旋の王国」コバルト文庫

螺旋の王国ISBN:4086006626

近未来。クリスはラスベガスの郊外でオスカーとともにレシピエントのドナーをつくる、禁断の遺伝子研究に従事している。19才だが、医師免許を取得している二人はつかず離れず、まるで螺旋の塩基配列のように暮らしてきた。そこにオスカーはゴミ捨て場に捨てられた売春宿の少年・シェルを連れてくる。伝染病に冒されたシェルをクリスはペットのようにかわいがり、もてはやす。一方で、シェルはオスカーを慕うが、オスカーはシェルにはにこりともほほえまない……。

培養液に漬けて五歳児が育つか。

とりあえず突っ込んでみました。一瞬あんまりにもあんまりだと思ったので、これは科学ではなく、イオ教会の狂った慣習か何かでクリスとオスカーは遺伝子研究をしているつもりなだけで騙されてるというオチが待ち受けているのではないかと思いましたが、そんなことはありませんでした。残念! いやだって、最近の流行じゃないですか。オタクに日常に帰れってテーマを与えるのはさ。余計なこと言わずに娯楽に徹しろと私なんぞは思いますが。

ま、技術はおいといて、こういうことが未来にあるのではないかということは私も数年前に考えたものだった。つまり、レシピエントのためにクローンなりなんなりがつくられることを、だけど。で、私はあえて脳(の一部)をつくらずにおけばまあいいのではないかと考えた。にしても、脳がなくたって人間ではないか。その生きた肉体から肺なり心臓なりを奪うのは、考えも技術も非常にグロテスクだと思う。とはいえ、いまや再生医療ベンチャーになる世の中。臓器不足はES細胞による臓器移植で解決していくのだろう。一応本文中でも語られているのだけど、クリスがやっていることのほうがずっと技術が必要にみえるんですが……。っていうか培養液のショックから立ち直れないよ。あまりSFを読まないせいなのかな。こんなものなのかな……。

別エントリーを作成する予定だが、とりあえず読了。他の受賞作品より幅がかなり厚いところをみるに、相当加筆したらしいが、非常に行き当たりばったり的な様相をしている作品。コバルトだとそんなものかとも思うが、作者が登場人物について余すところなく全部書きたい! と考えたのか、想像の余地を残して欲しいところまで手をいれてある気がする。何か事件がある度に突然浮き彫りになったその人間の過去! って感じでしつこく描写されるってちょっとありえないっすよ。読者をバカにしすぎだろーそれとも読者層ってこんなもんなのか。せめて伏線とか入れ込んでおいてほしいけど、うまいと思ったのはロボットとクリスがシェルにオスカーとの因縁を双子にたとえて話すところぐらいだった。うん、クリスは非常に生き生きしてて、作者の愛が伝わってくる。っていうか本当にこの二人よくわからん過去の他はシェとオブ(ってかヒート)なんですけどー。萌えちゃって困るんですけどそんなの。

私だったらシェルはいらないかな、アリスだけで一本話を持たせられるかと思います。