引っ越し業者を決めた。営業の人大変だなあ。最初の人にしたのであとを断るのが大変だった。もと安くできるから! ってでももう段ボールももらってるんだよ。その返却の手配もやってくれるらしいが結局のところ一万、二万の違いじゃさしてかわりないんで結局好みのガテン入ったお兄さんに金をなげうつつもりで。かわいいなあ。ホスト系とか全然萌えない、こんな素朴な感じの子が好きだ。

という話を先輩にしたらば、ああいうの好みか。私も好きよ。好き。と言われ満場一致で可決。(二人しかしない)

私の実家は田舎で、漁師の子と農家の子がクラスの半分を占める勢いだったのだが、そんな感じだった。スーツで来るかと思ったらわりと皆ラフなのだな。

母のことを思い出すと、彼女はそうやってお宅訪問されると断れないたちで、茶の先生からいま取っといたほうがいいからと言われて全くの初心者のくせに中級の免状を八万で買い、暑い夏の日にやって来た牛乳売りに契約をまだ今日は一件も取れてないと泣きつかれ、試験に失敗したらうちの息子もこんなふうになるのかも。かわいそう……と、もののあはれで契約し、そういうふうにして何でもほいほいと買ってしまう人であった。

あったというか、今もそうなのだろう。

うちは金だけはあるので、かわいい話だねー、というかなぜそこで弟に置き換えるのかしら〜?  ですむけれども、こないだ見た、行列のできる法律相談所でそんなふうに訪問販売を断り切れない妻が夫の金を浪費して離婚を言い渡されてた。

されど我が家は父も一緒で、デパートの地下売り場なんかに出かけて、袖を引かれると必ずその品物を買ってしまう。新幹線に乗ったときは販売のお姉さんが来るたびにその土地の品物を買って帰って、佐賀駅に着いた時には両手が紙袋で一杯だったそうな。夫妻そろっていい鴨がいたもんだ。茶釜を四十万ほどで買ったときは押し売りという迷惑なスキルを持った裏千家の先生は即金が手に入り、目の前の釜で湯が沸騰しているのにそれを使わず電気ポットから湯を注いでしゃかしゃかやるという動揺ぶりを披露してちょっと面白かったが、ぽんと目の前に札束が現れればそんなもんかもしれないなとも思う。

そういえば私はずっと人見知りだと思ってたけど、世間一般で言う人見知りとはちょっと違って、常に抱いているのは対人恐怖なのではないかと気づいた。こういう言葉の使い方の差異がささいな誤解を生むはめになるんだよな。気をつけないと。担当医はいつものように頭が悪かった。今日は特別変なのが待合室にいて、私に何言ってんだゴラーとか叫びながら廊下をうろついていたからこんな患者を診てるんじゃそら頭も悪くなるだろうな。それでもひと味違ってまるでニーチェでも降霊しているかのように人生なんて語るもんだから、こいつ私の知らぬ間にとうとうその域に達したかと生暖かい眼差しで見た。カウンセラに言わせるとこの先生は普通は患者にこんなことは言わないという。確かにこいつは私の話を医師として聞くより、明らかにお母さんの気持ちになって話しかけてくる。しかし私の母はそのへんの母親とは別種の人間なのだから、いくら私の母親になった気分でいてさえ、あんな気狂いの気持ちなどはかり知れる覚えなどなかろう。が、どんなものであれ特別扱いは気持ちがよろしくなる。

しかし四十過ぎたら誰でもニーチェのごとき悟った物言いをするのかもしれぬ。

気をつけなければ。