谷崎 潤一郎 『痴人の愛』新潮文庫(ISBN:410100501X )

痴人の愛同人誌を書こうとしているときに、主人公の一人称にするとして、「〜でした」「〜です」「〜なのです」……谷崎 潤一郎か? この書き方は過去を振り返るにはいいのだけれど、緊迫した感じがあまり出ない。ひどいときにはお前悠長に丁寧語にすんな! とか。要はリズム、なのだが。

というわけで、再読。

ナオミすげぇー! でもこんな女、知ってるからな〜。そのときは私も彼女も中学生だったけど、私の家庭も彼女の家庭も同じ開業医を両親に持っていたから、彼女の奇怪な行動が、ま、少しは理解できるつもりだった。

ナオミもすごいが、譲治の女中として引き取ってやって教育ができそうだったら結婚してやろう! みたいな大上段からの物の見方が非常に嫌だった。嫌だからどうしたって単に受け付けないというだけなんですが。西洋人の女の方が好みだったが小男の自分には不釣り合いと思い、混血児のようなナオミを選んだとか、あけすけに書いてあるのもなんともいえない嫌悪感がありますねー。もうこれは恋愛じゃないやと思うんだけど、執筆当時の大正初期とか明治後期の風俗って、そんなものだったのかもしれない。つまり、端的に言うと、今でもアフリカとか東南アジアで起こっているような、妻となる女と引き替えに牛五頭! みたいな世界ですよ。女中として養ってやるんだあ! だから当人の意思は関係ないぜ! のような。それでも一応気持ちを聞いていて、自由意思でそうさせている、慈善めいたことを俺はしているのだ、という自分自身を正当化させる行動が一通りあって、そこが妙に私を居心地悪くさせる。教育受けたい女給が金持ちの男に「お金は全部出してあげるから家に来るかい?」と言われたら、千載一遇のチャンスなんだから、そりゃ行くでしょう。

なのに、ナオミに頼られているのだ、これこれをさせてやっているのだ、といった卑屈な傲慢さがそこここに満ちあふれていて、それがめちゃくちゃ気持ち悪い。恐らくこれは女性には不評だろう。美しい女性に弄ばれてかわいそうな自分に陶酔したい男性向けです。